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徳島地方裁判所 昭和43年(ワ)151号 判決

原告

玉置昌代

代理人

大島知行

加藤幸則

被告

平和林業有限会社

代理人

小川秀一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

一、原告

被告が昭和四三年一月三〇日に開催した定時社員総会においてなされた「玉置武夫、玉置要、玉置良江を取締役に、玉置勝子を監査役にそれぞれ選任する」旨の決議を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、被告

主文と同旨。

第二、主張

一、原告の請求原因

1、被告会社は昭和二七年一二月二五日山林の経営ならびにこれに附帯する一切の事業を行うことを目的として資本総額二八〇万円(一口一、〇〇〇円都合二、八〇〇口)をもつて設立された有限会社であり、原告は少くともその固有持分として出資持分三〇〇口を有する被告会社の社員である。

2、被告会社(当時の代表取締役玉置武夫)は昭和四三年一月三〇日定時社員総会(本件総会)を開催し、同総会は「玉置武夫、玉置要、亡玉置宗弘(昭和四四年四月死亡)、玉置良江を取締役に、玉置勝子を監査役に各選任する」旨決議をなし、同年二月一三日その旨登記もなされた。

3、しかし、右総会における決議の方法には次のような法令違反がある。すなわち、

(1) 被告会社の出資持分二、八〇〇口の内訳は当初原告、要(勝子の夫)勝子、武夫及び玉置慶一郎(原告の夫)が各三〇〇口、玉置増一(設立当初の代表取締役)が一、三〇〇口であつたところ、増一が昭和四一年五月二五日死亡したため、右一、三〇〇口は、いずれもその実子である原告、勝子、亡宗弘、良江、および訴外柿本智代の五名がその共同相続人としてこれを(準)共有するに至つた。

(2) ところで、右(準)共有出資分一、三〇〇口(以下本件共有出資分という)については、その後昭和四一年九月二二日、五名の相続人が協議のうえその権利を行使すべき者を原告とすることを定め有限会社法二二条、商法二〇三条二項、民法二五二条)、同日被告会社に対し、本件共有出資分の名義を亡増一から前記五名の相続人に書換えるべき旨請求するとともにその権利行使者を原告とする旨届出をなし(いわゆる代表届)、被告会社はこれに応じ同年一〇月三〇日社員名簿をその旨変更した。したがつて右一、三〇〇口の社員権は原告においてのみ行使しうるものである。

(3) ところが、本件総会における決議の仕様をみるに、議長武夫は前記共有者のうち亡宗弘、勝子の両名がその後被告会社に対し自己の持分に応じて自ら社員権行使をする旨の届出をしているということを理由に、原告が本件共有出資分一、三〇〇口の権利を単独行使することを認めず、共有者五名がそれぞれ二六〇口宛権利行使すべきものと解した。

しかして、本件決議案(第二号議案)は総会に出席していた武夫、要、亡宗弘、勝子がこれに賛成したため、議長は原告、慶一郎の反対を押し切つて賛成議決口数を武夫、要、各三〇〇口、宗弘二六〇口、勝子五六〇口合計一、四二〇口と計算し、出席口数すなわち総口数二、八〇〇口の過半数とみなし、右議案は可決されたものと扱つた。

(4) しかし、本件共有出資分一、三〇〇口は未だ遺産分割の協議も整わず、それ故法律上当然に分割されるものではなく、前記のとおり原告のみがこれを代表行使しうるものであるから、前記第二号議案の賛成議決権数は武夫、要、勝子各三〇〇口合計九〇〇口であるのに対し、反対議決権数は慶一郎が三〇〇口、原告が固有持分三〇〇口と本件共有出資一、三〇〇口の代表行使分をあわせた一、六〇〇口合計一、九〇〇口の圧倒的多数となり、第二号議案は否決されたこと明白である。以上のとおりであるから、本件決議方法は有限会社法三八条ノ二に違反しており、取消されるべきものである。

4、よつて、原告は有限会社法四一条、商法二四七条に基き被告会社に対し本件決議の取消しを求める。

二、被告の答弁

1、請求原因1、2の事実は認める。3のうち(1)、(3)の事実は認める。同(2)の事実のうち原告主張のような社員名義の書換請求、および代表者届のあつたことは認めるが、その余の事実は不知、同(4)の原告主張の見解は争う。

2、亡増一名義の出資分一、三〇〇口について未だ遺産分割協議が整わず、相続人五名からその代表行使者を原告とする旨の届出があつたことは事実である。

(1) しかし、元来、有限会社の出資持分は「物」ではなく、「可分債権」と解すべきものであるから、右のような届出の有無にかかわらず、これを共同相続する者あるときはその相続分に応じ法律上当然に分割されると考えなければならない。

(2) 仮りに然らずとしても、有限会社法二二条で準用される商法二〇三条二項(共有株の代表者届の規定)は専ら会社の便宜のために設けられた任意規定であるから、会社としては共有者名義の届出ある限り、代表者の単独行使を認めず、各共有者の持分に応じて出資口数を分割し、各共有者がその口数に応じそれぞれの議決権を行使することを認めてよいと解すべきである。この理は、商法が昭和四一年の改正により二三九条ノ二を新設し、複数株主の議決権不統一行使を承認した趣旨に照らしても当然であろう。また、このように解することが共有者各人を個人として尊重するゆえんであり、信義則にも適い、民法一条ノ二、一条の趣旨にも合致する。

(3) のみならず、本件では、代表届のあつた後、相続人の一人である亡宗弘は昭和四二年八月二六日、同じく勝子は同年九月五日それぞれ代表者原告に対し共有者を定めた約定を解約する旨意思表示をするとともに、被告会社に対してもその旨通知し、爾後自ら自分の持分に応じた社員権(すなわち二六〇口ずつ)を行使する意思を表示したので、被告会社はこれに応じた。

(4) 仮りに然らずとしても、本件共同相続人五名が協議してした代表者を定める約定の内容は、原告に対し無条件にその権利行使を委ねる趣旨のものではなく、共有者五名の総意にもとづいてこれを行使しなければならない旨定めたものであつたところ、原告は本件総会において前記二号議案に反対するについてあらかじめ勝子、亡宗弘の意見を何ら徴することなく勝手に意思を表明したに過ぎなかつたのであるから、その代表権行使は無効である。

以上、いずれにしても、本件決議にさいし、議長武夫のとつた措置は適法で、本件決議方法には何らの法令違反はない。

第三、証拠〈省略〉

理由

一、原告主張の請求原因1の事実(原告が有限会社の社員であること)、2の事実(本件総会において本件決議がなされたこと)、3の(1)の事実(被告会社の総出資口数二、八〇〇口の内訳と、うち一、三〇〇口の出資持分権者玉置増一の死亡による原告ら五名すなわち原告、宗弘、勝子、良江、智代の共同相続関係)同(2)の事実(本件総会議長玉置武夫が本件決議の賛成過半数と認め可決の扱いをした数字上の根拠)はすべて当事者間に争いがなく、その全員が決議権行使権能を有していたか否かは別として、本件総会の出席者が原告、慶一郎、武夫、要、宗弘、勝子(但し代理による)の六名であつたことは〈証拠〉によつてこれを認めることができ、他に反証はない。

二、そこで、本件決議の当否について検討する。

(一)  右事実関係によると、要するに本件では昭和四一年五月二五日死亡した玉置増一の持分一、三〇〇口の帰すうについて争いが存し(原告は自分が有限会社法二二条で準用される商法二〇三条二項に則る代表者として一、三〇〇口全部の議決権を行使したと主張し、被告は右遺産持分は各相続人に二六〇口あて均分されていると主張している)、これが唯一の争点となつているから以下この点について審究する。

〈証拠〉を綜合すると、亡増一の遺産持分の処置について次の事実が認められる。すなわち、

(1)  増一生前の被告会社出資持分二、八〇〇口の内訳は原告主張のとおりであり、そのうち増一所有の一、三〇〇口は同人の死亡によりその相続人たる実子五名(原告、宗弘、勝子、良江、智代)がこれを共同相続することになつたが、その具体的な管理方法についてはかねてから原告の夫慶一郎が弁護士の教えを受け、主唱した結果、昭和四一年九月二二日五名全員が原告方に参集協議をなし、当初は勝子、要らが分割を希望したが、他にも分割すべき遺産があり、これだけを分割するのは適当でない点や、同席していた慶一郎の強い示唆もあり、結局分割はとりやめ、商法二〇三条二項に則り、「本件共有出資持分に基く社員権を行使する者を賛成多数をもつて原告と定める。但し、勝子は分割相続を希望した。なお、原告は五名の賛否を問い、総意をえた上でなければ代表権の行使をしない。」旨記載した決議書を作成連署するとともに、その頃到着の内容証明郵便をもつて被告会社に対し(1)右増一名義の一、三〇〇口を五名共有名義に書換えるべき旨の請求と(2)原告を社員権を行使する者と定めた旨の通知を、いずれも五名連名でした。よつて、被告会社はこれに応じ同年一〇月三日頃名義の書換えをした。(なお、以上のうち、五名が書換請求したことと代表届出をしたことは当事者間に争いがない。)。前記決議書によると、勝子は原告を代表行使者とすることに反対したかのように受取れる節がないではないが、実際は同女も結局右決定自体についてはこれを承認した。

(2)  ところが、その後増一の全遺産の分割をめぐり原告やその夫慶一郎とその他の相続人らとの間に意見の喰い違いが生じ、これに武夫の利害もからまつて(武夫は亡増一の甥すなわち原告ら五名のいとこに当り、従来から被告会社の実権を握りこれを経営していたもの)、五名の相続争いが表面に出るようになつた結果、まず、宗弘は昭和四二年八月二六日頃、勝子は同年九月五日頃原告に対し、それぞれ内容証明郵便をもつて「以後、本件一、三〇〇口の遺産共有出資持分にかかる社員権行使を原告に委ねた前記決議書に基く契約を解約する」旨の意思表示をするとともに、被告会社に対しても「同旨及び以後は各自の持分すなわち二六〇口あてを個別に権利行使する。」旨通知した(乙第三、第四号証)。本件総会はその後に開催された。

以上の事実が認められ、右認定事実を左右すべき証拠はない。

(二)  以上の事実関係によれば、亡増一の共同相続人五名(原告宗弘、勝子、良江、智代)は、本件遺産出資持分一、三〇〇口の処置について協議した結果、(1)全員の意思により、これを直ちに分割することなく、準共有のまま管理することとし、まず、被告会社に名義を共有に書換えることを請求し(被告会社もこれに応じ書替えをなし)、次いで有限会社法二二条で準用される商法二〇三条二項の定めるところに従い、その権利を行使すべき者を原告と定め、その旨被告会社にも通知したが、(2)その後、遺産全部の相続問題ひいては被告会社の経営権問題等に関連し、原告、その夫慶一郎の両名と武夫や勝子らとが反目するに至り、右勝子と宗弘が相次いで意をひるがえし、原告に対し前記社員権代表行使の委任を解く旨意思表示をなし、その旨被告会社にも通知したことが認められる。

しかして、一般に有限会社の出資持分が共同相続された場合には、遺産分割がなされるまでは、その口数にかかわらず、右持分全部について相続分に応じた準共有関係が生ずると解すべきである(この理を当然の前提として説示している最高裁判決昭和四五年一月二二日民集二四巻一号六頁参照)から、本件原告ら五名の共同相続人が、全員の意思により、前記法条に則り原告を社員権代表行使者と定め、その旨被告会社に通知したことはそれ自体正当適切な措置であり、右の段階に限れば、原告は特約により他の持分権四名の総意を徴すべきか否かの内部関係は暫らくおき(原告らの決議書の文言参照)、まさに右一、三〇〇口の議決権を自己の名において代表行使しうべき立場にあつたというべきである。(もつとも、前掲乙第二号証によれば、被告会社の「社員名簿」には本件一、三〇〇口の権利者名義を亡増一から原告ら五名の共有名義に変更した旨記載しているだけで、代表者が原告である旨の記載はないことが認められるが、被告会社が代表届を受理しているかぎり、通知の効力は発生すると考えられる)。以上の見解に反し、出資持分は可分債権と解すべく、それ故共同相続により性質上当然相続分に応じた分割がなされるから前記のような法条の適用は初めからその必要をみないとする被告の主張はにわかに首肯し難い(なるほど、個別の権利行使が望ましいことは市民法一般の理念や会社法上の技術的要請に鑑み被告主張のとおりではあるが、右のような要請は、元来広く共有関係、殊に分割前の遺産管理関係一般に対して向けられるべきものであり、現に我が民法はかかる場合いつでも分割請求をなし個別所有に解消する建前をとることによつて前記要請に答えていることは周知のとおりである。また、一口に出資持分権、社員権といつてもその内容は多岐にわたり、それは権利というより地位というべきものであり、これを金銭債権の如き可分債権と同一視することは困難である。のみならず、被告主張のような可分債権の扱いをしてみても割り切れない端数については準共有関係を承認せざるをえないが(但し、本件ではたまたま計数上あたかも二六〇口づつに可分であつたが)、商法二〇三条二項はかかる例外的な場合に限つて適用されることを予想して定められたものとは解し難い)。

しかし、すすんで、その後の事情、すなわち宗弘、勝子の両名が原告に対し代表者選定の約定を解く旨意思表示をし、被告会社にもその旨通知した点について検討すると、、原告の主張(本件総会当時も原告が一、三〇〇口全部の議決権の代表行使権を有していたとの主張)は必らずしもそのままこれを肯認することはできない。

すなわち、まず、(準)共有株式(持分権も同じ)の権利行使者一名を定めることを規定した商法二〇三条二項の趣旨は専ら共有株主権を行使するさいの会社に対する関係を会社の便宜のために規制したものにほかならず、共有者相互(内部)の代表者選定行為自体を規定したものではなく、右内部関係の法的性質についてはこれを別個に検討すべきものである。しかして、前記のような共有者のなす代表者選定行為自体は被選定者(本件では原告)に対し広汎かつ重要な権限(本件の如く、場合によつては会社経営の死命を制することもある議決権の行使のほか利益配当受給権、各種の少数株主権の行使等にも及ぶ)を包括的に委託する一種の財産管理委託行為(債権法の領域)と目すべきものであつて、共有物につき個々の権利行使をその都度行ういわゆる管理行為または保存行為(物権法の領域―この場合は共有物の管理一般にならい、多数決または単独でなしうる。そして、これを規定した民法二五二条は強行法規である)とは次元を異にするものと解するのが正当であり、それ故その選定行為は性質上全員の合意をもつてする必要がある(相続財産一般の管理事務の委託について相続人全員の合意を必要とすると考えるのが通説である点参照)とともに、右の委託は特段の約定なき限り、委託者(他の相続人)の一人において何時にてもこれを将来に向つて解除することができ、これあるときは被選定者の代表権は全体として消滅すると解さなければならない(民法六五一条参照。この場合は本件のような特殊な契約の性質上同法五四四条の適用はみないと解すべきである。現に、原告らが決議書において「原告は五名の賛否を問い、総意をえた上でなければ代表権の行使をしない。」と約した趣旨は言外に右の結論と同一の内容を約したと認められる。以上の観点によると、本件原告らが代表者選定にさいし作成した決議書の文面に「賛成多数をもつて」と表現したのはその場の真相を正確に表現したものでないこと前記認定のとおりである。のみならず、選定行為の性質を共有物管理行為の次元で理解した誤りを犯しているといえる)。しかして、右代表権消滅の対会社に対する効力については商法、有限会社法のいずれもその規定を欠くけれども、前記商法二〇三条二項の趣旨を勿論解釈すると、解除権者の通知あることを要し、またその者の通知をもつて十分であると解するのが相当で(事柄の性質上、選定通知のような全員による通知は期待し難い)、これあるときは会社はもはや被選定者を代表者として扱うことができないというべきである。

以上の理を前記勝子と宗弘の所為(原告選定行為の解除と被告会社への通知)にあてはめてみると、いずれも右の要件にかなうことが明白である。

そうすると、原告は本件総会当時本件共有出資分一、三〇〇口について何ら議決権代表行使権能を有しなかつたといわねばならず、かえつて右一、三〇〇口の共有出資分は代表届出のないもので、共有者五名全員による同時同一行使による以外、議決権行使をなしえない情況にあつたいわば棚ざらし持分と考えなければならない。

(三)  そこで、以上の見解に基いて本件総会における本件議案の賛否の模様を試算すると、総持分二、八〇〇口中、出席社員とその所有持分は原告、慶一郎、武夫、要、勝子の五名(以上各三〇〇口)合計一、五〇〇口(宗弘は議決権なし)となり、よつて総会は成立し、そのうち議案賛成者は武夫以下三名、九〇〇口となり出席口数の過半数に及び、本件決議は結局有効に可決されたこととなる(有限会社法三八条ノ二参照。なお、成立に争いない甲第一号証によつても、被告会社は議決方法につき定款により特段の定めをしていない)。

しかして、議長武夫は右と異る見解に基き同旨の結論を出したこと前記のとおりであるが、その瑕疵は本件決議の可決成立自体には全く影響がないから、裁判所は右瑕疵を理由に本件決議を取消すことは適当でないと考える(裁判所がかかる裁量権を有することにつき最高裁判決昭和三〇年一〇月二〇日民集九巻一一号一六五七頁、同昭和三一年一一月一五日民集一〇巻一一号一四二三頁参照)。

(四)  そうすると、本件決議は結局のところこれを有効として維持すべきものである。

三、よつて原告の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。(畑郁夫 葛原忠知 岩谷憲一)

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